Wake Up,Girls!岩手公演の奥野香耶さんについて

本記事は『Wake Up, Girls! Advent Calendar 2018』19日目の記事となります。昨日のご担当は(@misopii_tommy)さんです。明日のご担当は(@housun_)さんです。

 

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12月9日(日)のWake Up,Girls!岩手公演に行った。

わたしは父方の田舎*1が二本松にあるので実質東北出身みたいなところがあるのだけれど、その一方で二本松より北の地を踏んだことはなかった。寒いのは苦手だし*2、こういうことがなかったら岩手には来なかったろうと思う。実は会場で見知らぬオタクも同じことを言っているのを聞いて「なんて失礼な!」と思ったけど、二本松にゆかりがない人間が二本松に行かないよな、という理論で納得をした。二本松には安達ケ原の鬼婆伝説があります。

WUGのライブは、2017年のにぎわい東北 presents Wake Up, Girls!in レイクタウン ミニライブ&お渡し会にはじまり、次がHOME part1の大宮公演、part2大阪、岩手。最初に生のWUGちゃんを見て、その場でどっぷりはまったわけではない。楽曲は知っていたしアニメも見ていたけれど、ライブを観に行く層では今年まで決してなかった。

解散が決まって、友人に誘われて、会場がたまたま一時間圏内で。そういったきっかけがなかったら、いい曲を歌う人たちがいなくなって寂しい、ぐらいの気持ちで収まっていたと思う。

わたしが、ワグナー、という範疇にあるのかには疑問符がつく。ペンライトを持ってコールをする行為が楽しいだけではないか、あるいはWUGの規模感がちょうどよかったからでWUGでなくてもよかったのはないか、という疑いが常に自分の中にある。

もちろん、素晴らしいアクトに対する喜びはある。でもそれは「ああ、いいもんみたな」という深度だ*3

それは、奥野香耶さんが盛岡出身だということを失念していたことからも分かる。永野愛理さんが仙台の人だというのは主に東北楽天ゴールデンイーグルスのおかげで覚えていられるのだけれど、奥野さんと盛岡を結びつける要素が、新規参入の人間からすると見当たらないというのが正直なところだった。

各会場で、地域ゆかりのメンバーによるパートがあり、大阪では吉岡茉祐さんによるコントが繰り広げられた。岩手では奥野さんが担当になるということには途中で気づき、彼女の人となりをよくは分かっていない人間からすると、(きわめて失礼な話であるが)鬼が出るか蛇が出るか、ぐらいの気持ちでいた。

宮沢賢治雨ニモマケズ」の引用からはじまり、わたしは泣きぬれて蟹とたわむれた。くそう、奥野さんも宮沢賢治か。啄木はダメ人間だから、好印象の賢治を花巻から担いでくるのか、と。

「ソウイウモノニ、ワタシハ ナル」

その切実な決意表明は、わたしのひねくれた性根をすとんと座席に収めてしまった。

暗転の中、雛壇が用意され、実はその時点でなんとなく何がはじまるのか見当がついていた。上手下手から続々と人が現れて、わたしは再度身構えた。

合唱が始まる。曲名が奥野さんの口から告げられる。『イーハトーヴの風』。

奥野さんの歌声が際立つことはなかった。だからこそ、その演奏で涙が流れた。ステージの中央に立っているのがたまたまそういう配置だったのだというかのように、そこには合唱だけがあった。

そして『言の葉 青葉』。混声4部の合唱用編曲が加えられたそれは、思い入れが深い人ほど突き刺さったのだろう。隣の方もすすり泣いていた。

昼の部が終わってから、岩手公演限定パートのことについて、ジャージャー麺をすすりながら考えていた。これは当然、夜も同じ構成、同じ曲目で行くだろう。選曲的にこれしかないだろう、また、もう一曲を準備するのも難しいだろう、と。

夜の部で歌われたのは『旅立ちの時』だった。決して声には出さず、心の中で低音パートを歌いながらステージを見ていた。

正直に言って、WUGやメンバーの持ち歌ではない合唱曲を提示されて、即座にきちんと受け止めるのは難しかったろうと思う。言ってしまえば合唱はマスではないのだ。伝える力は絶対にあるけれど、問答無用というわけにはいかない。

それでも、演奏と奥野さんのメッセージ、奥野さんに寄り添うように立つWUGのみんな、そして『がんばってねとかんたんに言えないよ』と一緒になって歌う観客、終わってしまえば、そう、本当にこのコンサートが大団円を迎えたのではないかと錯覚するぐらいの一体感が会場を包んだ。昼夜合わせて3曲のパートで、奥野さんが自分の思いを余すことなく伝えようとする構成がそこにあった。

 吉岡さんが「かやは、大阪よりずっと前からこのステージの準備をしていた」という話をしていて、これは本当にその通りなのだろうと思った。

自分を前面に出すことなく、それでいて自分のやりたいことをやってのける胆力。そのすさまじさは、声優・アイドルの会場ではついぞないであろう「ブラボー」の賛辞*4と、鳴りやまぬスタンディングオベーション、そして公演半ばでありながら泣き崩れそうになるメンバーの表情が何よりの証明だった。

 「今日はわたしがプリンセス……でしたか!」

わたしがWake Up,Girls!の魅力に取りつかれたのはほんの半年前のことで、はじまった時には既に終わりが見えていた。彼女たちの軌跡を全て追うことは決してかなわないという後悔がある。

それでも、こうして本当に素晴らしい場所にいることができた。アイドルとしての奥野香耶さんはこういう世界を描くのだと受け止めることができた。彼女が描くイーハトーヴが、会場に体現された瞬間に立ち会うことができて、こんなに嬉しいことはなかったのだ。

 

はしがき:オチをつけないと落ち着かないので言うと、山下七海さんは今回も動きの精度と引き換えにワンテンポ遅れる場面が散見されて本当によかった(ななみん推しです)。

*1:実家ではない

*2:今回盛岡に来るのに秋用のブルゾンで来てしまい、新幹線の車窓から仙台近辺が雪景色になっているのを見て死を半ば覚悟した

*3:エンターテイメントの観客の態度としては何ら間違ったものではないけれど

*4:おそらく二階席の中央付近で真っ先にブラボーと叫んだワグナーがいたんですよ