リズと青い鳥とピンクの腕時計と黄色いフグϵ( 'Θ' )϶と一面のクソ緑

当初作ろうと思っていたもの↓

 

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劇中屈指の名カット「フグ」です

 

映画『リズと青い鳥』は、作中に登場する架空の童話「リズと青い鳥」をもとにした劇中劇、そしてそこから着想を得て作られた楽曲「リズと青い鳥」、中でも特に第3楽章を媒介に、傘木希美と鎧塚みぞれ*1という2人の少女の過程を描いた作品です。
山田尚子監督や脚本の吉田玲子がパンフレットで「感じたことがそのままその人の「映画」になってほしい」(吉田)「自由にこの映画を楽しんでいただきたい」(山田)と書いている通り、作り手の主張や主観といったものを自制し、2人の世界をそっと覗き見るというアプローチで作られた作品なので、読み解きという行為は大きな意味を持たないと思っています。
それでも、比較的すっと理解しやすい鎧塚みぞれに対し傘木希美の内心はベールに包まれていて、そのことがこの映画を観た人に「残酷」という印象を与えてしまっているのかな、と他者の感想を読んでやきもきすることがありました。*2
なので私の感想文は、傘木希美とはどういう人物なのかをなんとなく主眼に置きつつ映画を追っていく形にしようと思います。*3

映画は、まず童話世界からはじまります。東欧*4の湖畔に暮らすリズが、動物たちにパンを与えている。分け隔てなく配っているけれど、動物の数には足りずに「ごめんなさい、もうないの」と謝罪する。その時、切り株の向こうに青い鳥がとまっているのを見つけるリズ。「綺麗……。まるで空を映した湖のよう」青い鳥はリズのもとへと飛んでくると彼女の掌にとまり、そしてすぐ空へ飛んでいく。

続いて、鎧塚みぞれと傘木希美が登場する現実世界が描かれます。最初、この感想文を書く時は映画の概観を網羅的に話そうと思っていたので、メモから冒頭のシーンを整理したテキストがあります。お蔵入りもつまらないので、引用します。


BGM:wind,glass,bluebird
みぞれ、校門から階段へ歩く
階段前で180度ターン、階段に腰掛ける
手を握る、足コツン、ため息とも深呼吸ともつかない
校門の柵を寄りで撮るカット
足音が聞こえる、キジバトの鳴き声、名前のない女生徒、みぞれ反応せず、女生徒階段を昇る
続く足跡、ピアノ、鳥のさえずり、梢のざわめき、茂みに咲く黄色い花 はっとなりみぞれ視線向ける
希美視点カメラ、みぞれまだ遠い(現実的にほぼ気づかない距離で足音で気づくみぞれ)
みぞれ立ち上がる
カットきりかわり、台詞挿入なく一緒に階段を昇る(希美右前、のぞみ左後ろ)
階段を昇った先で希美、青い羽根を拾う
希美、空に透かすように青い羽根をかざし、見上げる「綺麗…」(※冒頭のリズと対応)
みぞれ、その後ろ姿を見つめている
希美、みぞれに「あげるよ?」
みぞれ、青い羽根を凝視する
希美「あれ、いらない?」
みぞれ、青い羽根を受けとる「……ありがとう?」
希美、「なんで疑問形なの?どうしたしまして?」スカートを裾をつまむ
「いこっ」
下駄箱、上履きを取り出す2人、希美は適当に、みぞれはそっと
二人廊下を歩く、揃わない歩調
給水機で水を飲む希美、みぞれも後を追うように飲む
どこか無人の一室、窓が開いている、窓の外の木に2羽の鳥が連れ立って飛び込む
階段を昇る、希美が先、みぞれが後
階段、姿消える、と思ったら上から顔を出す、にっと笑う、みぞれ傘木を見上げる、足だけしか見えない
廊下、音楽室の鍵を持っているのは希美
希美の背中を見るみぞれ、カットきり代わり、中学時代、桜並木を同じように歩く2人
リュックを揺らす、ポニーテールを揺らす、時折みぞれを振り返る希美
音楽室の前にたどり着く
鍵を差し込む、じっと見るみぞれアップ、足を動かしたり体を傾けたりして待つ希美、希美の顔もアップ
扉があく、その前で一度くるりと翻って音楽室に進む希美
希美の背中を映しながらハレーション、白くフェードアウト
"disjoint"

サウンドトラックの1曲目「wind,glass,bluebird」が流れている間の概要です。既に多くの人が指摘されている通り、サントラの中に靴音や鳥の鳴き声といった環境音まで収録されているほど、劇伴とアニメーションが切り離せない構造になっています。原作/TVシリーズの「響け!ユーフォニアム」を知らない人でも、希美とみぞれの関係性、お互いのおおまかな性格、それが以前からずっと続いてきたことがスッと理解できる場面です。
ここでまず確認したいのが、冒頭で青い鳥を見つけたリズの「綺麗」という言葉と対応しているのが、青い羽根を拾い上げた希美の「綺麗」であるということです。映画を観ていくと分かりますが、希美とみぞれはお互いに「みぞれ=リズ・希美=青い鳥」と見立てて話が進んでいきます。この理解が後半ひっくり返るのですが、そもそも冒頭の段階で「答え」は明示されているわけです。
このことは逆転の伏線というだけでなく、希美が青い鳥≒音楽の才能/鎧塚みぞれに対してどういった感情が根底にあるかを示唆しているように思われます。これも後述しますが、希美はみぞれに無意識の嫉妬を抱いていることが(明言はされませんが)分かります。それも真実なのですが、リズは青い鳥の姿に見惚れたように、希美にはそれよりもっと根源的に、美しい音楽というものへの思いがある、言葉にすれば「憧憬」のまなざしがコアな部分にあると見ることができます。これは「嫉妬」「羨望」「諦観」といった負の感情に比べて異質で、言葉遊びのようですが見落とされがちであるように思われます。

また一方で、この一連の流れは希美がみぞれのことをなんとも思っていない、たいして好ましいとも思っていない、といった誤解を否定します。希美は寡黙なみぞれを気遣ってことさらに話しかけたりせず、2人で同じ場所に向かうのに自分のペースで進んでいきます。それでも、時折振り返ってはちゃんとみぞれが着いてきていることを確認する。この時点の希美も、それなりにみぞれとの距離感を確立しているわけです。そもそも、一方的にみぞれが希美を慕っているだけなら中学1年から高校3年まである意味で安定した関係性が持続はしないのです。
それがはっきりと分かるのが、青い羽根をみぞれに差し出し「あげるよ?」と言った希美が、みぞれの反応を見て「あれ、いらない?」と戸惑うシーンです。これも複数の見方をすることができる場面ですが、「綺麗な青い羽根のプレゼントをもらってみぞれは喜ぶだろう」という前提が希美の中にあると捉えることができます。みぞれの距離感が明白であるように、希美にも距離感が存在します。*5

 距離感と言えば、希美は踏み込まれそうになると一歩引きます。2人きりの音楽室で

 

実際に作成されたもの↓

近くて遠い、『リズと青い鳥』と山田尚子の距離 // 抱きしめることをやめた「愛」の物語について

*1:ここでどちらの名前を先に挙げるかで意識無意識に観客のポジションが分かる気がする

*2:否定するつもりはありません

*3:言いたいことは山ほどあるのですが全部に触れていくときりがないというのもあります

*4:個人の感想です

*5:青い羽根を“青い鳥”に渡すという多分に示唆的なシーンでもあります